秘密の地図を描こう
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まさか、あそこでミゲルが来るとは思わなかった。
「ルナを巻き込めば、レイだって妥協するしかないと思ってたのに」
彼の登場でそのもくろみは外れてしまった。
「考えたら、あいつもあの人の味方か」
と言うよりも自分を邪魔する相手か、と呟く。
「もう一度だけでいいから話をしたいだけなのに」
何故、あれほどまでに自分が彼のことに興味を示すのをいやがるのだろうか、と思う。
「あの人も、熱出したって言ってたな」
それほどまでに拒否反応を示されるようなことをしただろうか、自分は。
「あの日のことしか、考えられねぇけど……」
しかし、あれは……と呟く。
確かに、彼はあのときのことを後悔していた。だが、それは体調を崩すほどのことだったのか、と改めて思う。
「そういえば、軍人じゃなかったって言ってたな」
では、どこで……という疑問はわき上がってくる。
しかし、インパルスの基本OSを彼が作ったと聞いた時点でそのその疑問はとりあえず解消したような気がする。
おそらく、オーブでも彼はMSの開発に関わっていたのではないか。
「そうなると、ラクス・クラインとどこで会ったんだろう」
しかし、すぐに疑問がわき上がってくる。
「それは知られたくないことなのか?」
だから彼らは自分と彼を会わせないようにしているのだろうか。
「……ただ、会いたいだけなのに」
会えれば、それで満足できるのに。シンはそう呟く。
「何か、方法がないかな」
きっと、何かあるはずなのに。それが見つからないだろうか。本気でそう考えてしまうシンだった。
書類をデスクに放り出すと、ミゲルは盛大にため息をつく。
「これって、どう考えてもシステム開発者を呼び出さなきゃどうしようもないんじゃね?」
しかも、ミネルバとインパルスの双方の、と続ける。
「そう言うことになりますな」
整備チーフのエイブスが渋面のままうなずいて見せた。
「ミネルバはすぐに都合が付くと連絡があったのだけど……インパルスの方は難しいらしいわ」
それはそうだろう、とミゲルは思う。
「アイマン隊長のお知り合いだ、とお聞きしたのですが?」
やはり来たか、と心の中で呟く。
「知り合いだけどな。あいつの仕事に関しては議長経由でないと却下されるぞ」
レイに打診しても断られたんだろう? とかまをかけてみる。
「ですが、このままでは実戦に出られません」
即座にアーサーがこう言ってきた。
「……そのせいで、相手が入院する羽目になったら、お前が全部、責任をとるんだろうな?」
これにそう聞き返す。
「……ひょっとして、体が弱いのですか?」
「前の戦争の後遺症でな。だから、あまり表にも出てこない」
実際、終戦後は一年近く入院生活を送っていた。その後も、ギルバートの監視下で静養していたようなものだし、と続ける。
「そう言うわけだから、仕事の話はできない」
下手をしたら首を切られかねないし、と付け加えてしまう。
「そう、なの?」
探るようにグラディスが問いかけてくる。
「俺としても、あいつには入院してほしくないですからね」
せっかく元気になったのに、と続けた。
「そう言うことですので、ずるはしないで正当な手段を執ってください」
これはしばらく、彼の顔を見に行けないな……と心の中でため息をつく。同時に、レイに注意を促しておかないといけないとも思う。
いっそ、ニコルを巻き込むべきか。そんな事まで考えていた。